「ふぅ・・・」
ナタリアは一人部屋でため息をついた。ここはグランコクマの宿屋。
ジェイドを迎えに来たのだが、当初の予定通り夜となってしまったので一泊することにしたのだ。
時刻は深夜。11時ごろである。
少し服を着て、ナタリアはベランダに出た。
風は吹いていないが、少し肌寒い。
「ふぅ・・・」
またため息をついた。
ぼぅっと下を見つめる。
「こういう夜は眠れないものですわね・・・」
ぽつりとつぶやいた。
明日でもう成人式。
だが悲しすぎる成人式。
「ナタリア!何やってるんだ!?」
下から声がした。
「寒いしこんな時間に!」
声の主はガイ。金髪の青年だ。
「少し夜風に当たりたくなっただけですわ。
・・・あなたこそ何をしてらっしゃるの?」
ガイは眠れないからというよりも、落ち着かないといった感じだ。
服装も普段の動ける状態のものである。
「何って、少しアルビオールの状態が気になってな」
「何かあったのですか?」
今日までちゃんと動いてきたように見えたが、何か問題があるのだろうか。
「ちょっと調子が悪くてね」
ガイの様子だとそうたいしたことはなさそうだ。
だが今は少しのことでも気にしてしまう。
「私も付き合いますわ」
そう言ってナタリアは部屋をでた。
「・・・よし・・・」
ガイの声が中から聞こえる。
ナタリアは外に座って終わるのを待っている。
「ふぅ・・・」
何度目のため息だろうか。
気晴らしになると思ったがたいして変っていない。
「大丈夫かい?」
仕事を終えたガイが出てきた。
「えぇ。大丈夫ですわ」
軽く返事をする。
だがそれも見せかけのようなもの。
「・・・・・・そんなに・・・気になるか?」
その場に座りながらガイが聞いた。
「な、なんのことですの・・・?」
少し動揺していた。
思ったことを読まれたかのようだった。
「明日は成人式。でも俺たちはそれを蹴ってあそこへ向かう。
・・・あいつのためにな」
風が吹いた。
弱く冷たい風。なにか良からぬことがあるような。
「でも、君は違う。むしろもうひとつのほうが気にかかってる。
・・・違ってるかい?」
やはり彼には特別なものがある気がする。
長い間一緒にいるからなのか、天性のものなのか。
「ええ。・・・やはり、どうしても思ってしまいますわ」
少し目を閉じる。
必死に泣くのを堪える。
「彼はまだ生きているのだと。
・・・必ず戻ってきてくれるのだと」
しかしそれも叶わぬことなのだろう。
その目で確認したわけではないが既にその人は亡くなっている。
「・・・さて、もう一仕事やりますか」
ガイはもう一度中に入ろうとした。
ナタリアもすぐについて行こうと立ち上がった。
ザァ・・・!
また風が吹いた。
先ほどよりも強い風。
何かを感じたのか、ナタリアは街の入り口に目をやった。
「・・・・・・!?」
彼女はアルビオールから飛び降り、街に向かって走り出した。
「・・・おい!どうしたんだ!!」
ガイもその後を追う。
街の中心。店の前あたりでようやくナタリアに追いついた。
「一体どうしたんだ!急に走り出して!」
ナタリアは膝に手をついている。
急に走ったためか息が荒い。
「・・・・・・ガイ」
「・・・?」
まだ息が切れているのにナタリアは話始めた。
「・・・もし、もしです。
・・・もしあなたが死んだはずの人を見たらそれを信じますか・・・?」
唐突に難しい質問。
死んだ人間が現れるのはありえない。
「・・・場合によるな。
実際に姉上みたいに目の前で死んだなら信じないが、違うなら信じるかもしれない」
ナタリアの息が徐々に落ち着いてきた。
そして彼女は振り向いた。
「・・・では、今のはなんだったのでしょう」
「・・・?」
「・・・私、今確かにアッシュを見ました」
また風が吹いた。
「・・・馬鹿な。
あの時確かに死んだって・・・」
ガイの顔が驚きに変ってるのに対して、ナタリアの顔は喜びになっている。
「・・・間違いありませんわ。
あれは確かにアッシュです」
だが今この場には誰もいない。
誰の気配も感じられない。
「・・・でも、今この場には誰もいないな」
「ええ。・・・見失ったのでしょうか」
ナタリアは周りを気にしている。
「或いは、幻の類かもしれないな」
「・・・そんな・・・」
しばらく沈黙が続く。
数分してナタリアが口を開いた。
「・・・・・・でもそうかもしれませんわね。
私が彼を思うあまりに見えないものが見えてしまった。
・・・そう考えたほうがいいのかもしれませんわね」
彼女は少し泣き顔になっていた。
長い時間が過ぎても思いは変らない。
彼がいるから自分もいられた。そんな気がしていた。
「・・・そろそろこのことも認めないといけませんわね」
「・・・そうだな。
だが、あいつの死は無駄じゃない」
「そうですわね。
私たちが彼の分もやっていかないといけませんわ」
納得した様子のナタリアは元来た方へ歩き出した。
それにガイはついていく。
また風が吹いた。
弱く心地いい風。
彼女を包むように吹いていた。
あとがき
連載第三弾。
プロローグシリーズはこれで最後です。
次回からはしっかりとした感じで行こうと思います。
今回のこれはガイナタです。
ちなみに二人の関係は前となんら変りはありません。
また細かい設定は作ろうと思います。
さて、次回予告ですが、ついに彼の登場です。
次回はゲーム本編のエンディングからいきます。
例によって更新はだいぶ遅いかと思いますので気長にお待ちを。
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