プロローグ3

もう一つの思い:Missing

「ふぅ・・・」
ナタリアは一人部屋でため息をついた。

ここはグランコクマの宿屋。
ジェイドを迎えに来たのだが、当初の予定通り夜となってしまったので一泊することにしたのだ。
時刻は深夜。11時ごろである。

少し服を着て、ナタリアはベランダに出た。
風は吹いていないが、少し肌寒い。
「ふぅ・・・」
またため息をついた。
ぼぅっと下を見つめる。
「こういう夜は眠れないものですわね・・・」
ぽつりとつぶやいた。
明日でもう成人式。
だが悲しすぎる成人式。

「ナタリア!何やってるんだ!?」
下から声がした。
「寒いしこんな時間に!」
声の主はガイ。金髪の青年だ。
「少し夜風に当たりたくなっただけですわ。
・・・あなたこそ何をしてらっしゃるの?」
ガイは眠れないからというよりも、落ち着かないといった感じだ。
服装も普段の動ける状態のものである。
「何って、少しアルビオールの状態が気になってな」
「何かあったのですか?」
今日までちゃんと動いてきたように見えたが、何か問題があるのだろうか。
「ちょっと調子が悪くてね」
ガイの様子だとそうたいしたことはなさそうだ。
だが今は少しのことでも気にしてしまう。
「私も付き合いますわ」
そう言ってナタリアは部屋をでた。

「・・・よし・・・」
ガイの声が中から聞こえる。
ナタリアは外に座って終わるのを待っている。
「ふぅ・・・」
何度目のため息だろうか。
気晴らしになると思ったがたいして変っていない。
「大丈夫かい?」
仕事を終えたガイが出てきた。
「えぇ。大丈夫ですわ」
軽く返事をする。
だがそれも見せかけのようなもの。
「・・・・・・そんなに・・・気になるか?」
その場に座りながらガイが聞いた。
「な、なんのことですの・・・?」
少し動揺していた。
思ったことを読まれたかのようだった。
「明日は成人式。でも俺たちはそれを蹴ってあそこへ向かう。
・・・あいつのためにな」
風が吹いた。
弱く冷たい風。なにか良からぬことがあるような。
「でも、君は違う。むしろもうひとつのほうが気にかかってる。
・・・違ってるかい?」
やはり彼には特別なものがある気がする。
長い間一緒にいるからなのか、天性のものなのか。
「ええ。・・・やはり、どうしても思ってしまいますわ」
少し目を閉じる。
必死に泣くのを堪える。
「彼はまだ生きているのだと。
・・・必ず戻ってきてくれるのだと」
しかしそれも叶わぬことなのだろう。
その目で確認したわけではないが既にその人は亡くなっている。
「・・・さて、もう一仕事やりますか」
ガイはもう一度中に入ろうとした。
ナタリアもすぐについて行こうと立ち上がった。

ザァ・・・!

また風が吹いた。
先ほどよりも強い風。
何かを感じたのか、ナタリアは街の入り口に目をやった。
「・・・・・・!?」
彼女はアルビオールから飛び降り、街に向かって走り出した。
「・・・おい!どうしたんだ!!」
ガイもその後を追う。

街の中心。店の前あたりでようやくナタリアに追いついた。
「一体どうしたんだ!急に走り出して!」
ナタリアは膝に手をついている。
急に走ったためか息が荒い。
「・・・・・・ガイ」
「・・・?」
まだ息が切れているのにナタリアは話始めた。
「・・・もし、もしです。
・・・もしあなたが死んだはずの人を見たらそれを信じますか・・・?」
唐突に難しい質問。
死んだ人間が現れるのはありえない。
「・・・場合によるな。
実際に姉上みたいに目の前で死んだなら信じないが、違うなら信じるかもしれない」
ナタリアの息が徐々に落ち着いてきた。
そして彼女は振り向いた。
「・・・では、今のはなんだったのでしょう」
「・・・?」
「・・・私、今確かにアッシュを見ました」
また風が吹いた。
「・・・馬鹿な。
あの時確かに死んだって・・・」
ガイの顔が驚きに変ってるのに対して、ナタリアの顔は喜びになっている。
「・・・間違いありませんわ。
あれは確かにアッシュです」
だが今この場には誰もいない。
誰の気配も感じられない。
「・・・でも、今この場には誰もいないな」
「ええ。・・・見失ったのでしょうか」
ナタリアは周りを気にしている。
「或いは、幻の類かもしれないな」
「・・・そんな・・・」
しばらく沈黙が続く。
数分してナタリアが口を開いた。
「・・・・・・でもそうかもしれませんわね。
私が彼を思うあまりに見えないものが見えてしまった。
・・・そう考えたほうがいいのかもしれませんわね」
彼女は少し泣き顔になっていた。
長い時間が過ぎても思いは変らない。
彼がいるから自分もいられた。そんな気がしていた。
「・・・そろそろこのことも認めないといけませんわね」
「・・・そうだな。
だが、あいつの死は無駄じゃない」
「そうですわね。
私たちが彼の分もやっていかないといけませんわ」
納得した様子のナタリアは元来た方へ歩き出した。
それにガイはついていく。

また風が吹いた。
弱く心地いい風。
彼女を包むように吹いていた。

あとがき

連載第三弾。
プロローグシリーズはこれで最後です。
次回からはしっかりとした感じで行こうと思います。

今回のこれはガイナタです。
ちなみに二人の関係は前となんら変りはありません。
また細かい設定は作ろうと思います。

さて、次回予告ですが、ついに彼の登場です。
次回はゲーム本編のエンディングからいきます。
例によって更新はだいぶ遅いかと思いますので気長にお待ちを。